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新木=元バンドのボーカル    山岸=新木にそっくりな殺し屋    京極=そくっりな山岸に狙われる      ヤクザ                   えり=スパーの店員                    冴子=えりにそっくりで京極の愛人                       舞=えりの子供                健太=えりの子供

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小説「メリー・ジェーンをもう一度」
歌手を目指し挫折した男が殺人未遂事件の巻き込まれ、自分とそっくりな殺し屋に命を狙われて逃げる。子連れの女との出会いを通じて人間、人生の再生を目指すようになるユーモア小説。
6 別れと旅立ち―その21
「ボク、ママが亡くなってからオネショしてないよ」
「私もママみたいにお料理作れるよ。玉子焼きとか……」
「嘘だ。舞ちゃんママみたいに作れないよ」
「うるさい!舞はパパがどんな女の人を好きになっても構わないよ」
 
  舞は新木の前で初めてパパという言葉を使った。
 
  サラダガールズの歌が終わり、聞き覚えのあるイントロが流れてくる。「メリー・ジェーン」だ。

「あ、あの車の人だ!」
「方向が反対だもん、やっぱり嘘よ。それに顔が見えないのにどうして分かるの?」
  身重の女性がボンネットを開けて覗き込んでいる。
「同じ服だもん。絶対にあの人なのに……」
  イントロが終わり、つのだ★ひろが歌い出す。
「あれ、この曲、ママが亡くなる前によく歌っていた曲だ」
「本当だ。そうよ。ママがお料理を作りながらいつも歌っていた」
「何回もね」
「メリー・ジェーンとアイ・ラブ・ユー以外は全部ハミングだったけどね」
「どうしてだったの?」
「きっと英語だから難しかったのよ」
「ママ聞いているね。きっと」
  二人はえりの様にハミングする。
 
  新木は突然車を停めた。峠の奥に陽はもう半分沈んでいる。
  助手席に床の並ぶ二つの骨箱を見て、自分の心の狭さを恥じた。
  今新木は歳とか世間とかの常識に囚われないで人間は肉体にある限りこの世で何度でもやり直せるのだと確信した。そして新木自身もそれを出来るという勇気が湧いてきた。たとえその過程で自分に立ち塞がる問題が生じても逃げないでやり続ければいつかはきっとそれは消滅するに違いない。何故かはその仕組みは分からないが、多分問題は自分が作っていている。自分が作ったものを自分で失くせない訳はないのだ。
 
  新木は天国のえりに向かって話しかけた。
「もう一度歌をやるよ。夢を諦めないで歌手になるよ」
  舞と健太は何のことかは分からなかったが陽に映えて逞しく自信に溢れる新木を見た。京極でもない、山岸でもない、小田でもない新木自身の存在をそこに見た。この世にたった一人しかいない新木に存在を見た。逞しく自信に溢れる新木を見た。
  新木は天に微笑んで車をUターンする。
  思わず健太が新木に訊く。
「パパ、どこに行くよ」
「東京に帰る!」舞と健太の歓声が上がる。
 新木はえりに聞こえるように「メリー・ジェーン」を歌う。勿論ハミングなしで。舞と健太は驚いて互いの顔を見合わせる。そして新木に合わせて歌う。メリー・ジェーンとアイ・ラブ・ユー以外はハミングで。

  新木達を乗せた車は一本道を東京に向けて走って行く。陽が完全に沈みより赤みが射して大自然を染める。

  新木は駅の道で泰司に電話した。「自分には二人が必要です。舞と健太と一緒に暮らす為に東京に帰ります」と。新木は運転しながらバックミラー越しに舞と健太の寝顔を見て、えりが血のつながりの無い二人を育ててきた謎が分かった。

                                                              終

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

6 別れと旅立ち―その20
「世の中には三人は良く似た人がいるって言う」
「ほら」
「三人ってことは四人いたって何人いたっていいってことさ」
「そうだよ」
「変なの」
「でもそっくりな人が何人いても、みんな違う人間なんだ」

  えりは新木が小田に似ていたから声を掛けてきた。新木も母親に似ているように思えたから話が出来た。しかしそれはあくまできっかけだった。新木はえり自身を徐々に好きになり愛するようになった。えりはどうだったのだろうか?新木は死んだえりには酷だが、どうしてもえりが自分を愛していていたという証が欲しかった。

  雑木林のカーブを曲がると高原の峠へのなだらかな長い一本道に出た。オレンジ色の光が地平線に拡がっていた。舞と健太はその絵葉書以上の綺麗な景色に感嘆の声を上げた。  

  先程地図で調べたら前方の峠を下ったら直ぐ叔父夫婦の家があるはずだった。心配しているかもしれないので新木は舞と健太がトイレにいった道の駅で電話を掛けておいた。泰司は向かえに行こうかといったが道は分かるからいいと断った。
  後部席の二人はサングラスを外し、身体を乗り出して眺めている。
「キャンプファイヤーの炎みたいな色」
「キャンプファイヤーって?」
「林間学校で夜、木を組んで燃やしてみんなで炎の回りで一緒に歌ったのよ」
「いいな」
「綺麗」
「うん、きれい」
  新木もサングラス越しだが本当に綺麗だと思った。
 
  健太が突然、新木が避けていて聞きたくなかった言葉を言った。
「パパ、ボク東京に帰りたい……」
 舞が追い討ちをかける。
「舞も!」
  新木は返す旨い言葉が浮かばないので時間稼ぎにラジオのスイッチを押した。溝口のサラダガールズのヒット曲が流れていた。明るい曲で良かったと旧友に感謝した。

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6 別れと旅立ち―その19
  舞と健太が玩具のサングラスを掛けて戻ってくる。健太が缶コーラを三つ持っている。サングラスは駅の道の売店で見つけて買った。舞は健太から缶コーラを二つ貰って助手席の方に回り、一つを新木の頬に近づけて、健太にも逆の頬からと目配せして徐々に近づけさせる。舞は首の振りでカウントを取り健太と同時に新木の顔に缶コーラを付ける。新木は夢の中の崇高な思考が止められて、飛び起きて頬を擦る。
「はい、これ」舞が新木に一本渡して、後部席に乗る。健太も真似て反対側から乗る。新木は助手席のドアに手を伸ばして閉め、最後に運転席側のドアを閉める。舞と健太は新木がキースイッチをひねると油断していたら、
「やったな!」突然振り向いて乗り出して缶コーラを舞と健太の身体に押し付ける。二人ははしゃぎながら抵抗して新木に自分の缶を押し付けてくる。じゃれあいが治まって三人は一緒にコーラを飲む。
「どうした、そのサングラス?」
「お店で売っていたから買ったの」舞が答える。
 
  新木はキースイッチをひねりエンジンを掛けて車を出す。
「ボクね、さっきママにとそっくりな人に遇ったよ」
「嘘でしょ?」
「本当だよ!」
「今どこにいるの?」
「車に乗ってどっかに行っちゃったよ」
「やっぱり嘘だ」
「嘘じゃないって!本当だよ!」
 
  新木は一瞬京極の愛人かもしれないと思った。しかし最初から知っている人間に限定する自分を可笑しく感じた。そっくりな人間が何人いてもいいじゃないかと思うようになっていた。たとえ外見がそっくりな無数の人間が居てもそれぞれの人間はそれぞれ違い、その人自身以外は存在しないのだ。俺と京極や帽子の男や小田がそっくりでもそれぞれが別の魂を持っているのだ。えりもそうだ。俺の母親や京極の愛人や健太がいたというその女性も外見がそっくりだとしても決して同じ人間ではない。もし将来的にクローン人間が馬鹿な科学者の手によって作り出されても絶対に完璧なそっくりな人間は生まれないはずだ。この世の中にはまったくそっくりな存在はあり得ないのだろうし、仮にあればどちらかが消滅する気がした。すべての人間はすべて同じではないという当たり前のようなことが理解出来て新木は嬉しかった。

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6 別れと旅立ち―その18
  ラベンダー畑に寄ってから、叔父夫婦の家を目指して車はスピードを上げて山道を進んだ。新木は焦ったが山道なので意外と時間が掛かる。
  直射が眩しくて新木はサングラスを掛けて運転している。窓が涼しい風が車内に入ってくる。後部席では舞と健太が地図を広げて見ている。
「今どこ?」
「ここよ」
  舞は健太に地図の位置を指す。
「叔父さんの家は?」
「多分この辺りよ」
「もう近いね……」
「ウーン、もうすぐ……」
「どのくらいかかるの?」
「さっきの所からここまでが三十分だったから……多分一時間くらいかなぁ」
  新木は二人の会話を聞いている。
「暗くなるまでに急ごう!」
「ボク、オシッコに行きたい」
「私も」

  駅の道の駐車場で新木は運転席のドアを開いて風通しを良くして目を閉じたら三十秒で眠っていた。相変わらず新木の鼾は凄い。新木は夢の中でこう考えていた。同郷とか母校とか好きな音楽が同じとか共通するものが双方にある方が親近感を増す。海外では見ず知らずの日本人同士が遇うだけでも親しくなれるし、東京では同郷の出身と分かったとたんに話が弾みだす。新木は宇宙人の存在を信じていた。地球が所属する銀河系と同じようなまたはそれを遙かに超える大きな銀河がいくらでもあるのだから宇宙人がいないという学者の方が非科学的だと思う。もしいろんな宇宙人と交流するような時代になれば地球人は誰でも親しくなれるだろうと持った。そうすれば陣地取りやナンバーワン宗教争いのトーナメントがなくなり戦争がなくなるはすだと新木は夢の中で思った。

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6 別れと旅立ち―その17
  新木は舞と健太には馴染みがないが自分が子供の頃見ていた「北の国から」というテレビドラマの丸太小屋や駅や学校を観にいくことにした。テレビで観ていた世界が点在していた。その時茶の間には父と母と新木がいて、一緒に黒板家の人々を中心としたドラマを観ていた。特に純や蛍に感情移入してテレビの前に釘付けになっていた。そして劇中にさだまさしのテーマ曲が流れると必ず涙が溢れた。父の浩一は涙を堪え、母の貴美は涙をエプロンの裾で拭っていた。新木はそんな時もあったことを思い出して、胸の奥が熱くなっていた。健太にパパ泣いているの?と真顔で訊かれた。新木はいやと言って背中を向けた。
 
  自分がいつから子供の心を失くしたか依然判らなかったが、子供と一緒にいるとその心を蘇らせられることに気付いた。子供が大きくなれば子供の子供である孫から教わるように出来ているんだと新木は思った。家族とはそういう風に構成されているんだ、きっと。そう思うと今までの自分がいかに半端者だったかが判り打ちのめされた。
 
  昼食の時間帯を遅らせて撮影にも使われたことのある「小野田そば」という店で三人とも手打ちそばを食べた。店内には出演者の色紙がいたるところに飾れていた。三人は少し物静かになっていた。
  健太が「るるぶ」を見てラベンダー畑を見たいと言い出す。新木は見ごろが7月末までって書いているからもう花はないよと説得しても、花が無くてもいいと言うし舞も行きたいというので行くことにした。新木は明るいうちに叔父夫婦の家に着きたかった。不案内の土地で暗くなって道を探すのも嫌だし、暗くなって着いて叔父夫婦に泊まっていけと言われるのを恐れた。舞と健太と別れづらくなる気がしたからだ。新木は送り届けて簡単に挨拶したら、家にも入らず戻るつもりでいた。だから時間を気にしたのだがラベンダー畑で大阪からの観光客に出会った。方言で分かったので旅の気軽さも手伝って新木の方から声を掛けた。するとその内の一人の主婦が同じ高校の出身だと分かり、三つ歳下だったが共通する先生の話題とかで話が弾んでまた予定の時間をオーバーしてしまった。

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